第14章 見たくない
0時を回った頃、やっと仕事をしていた手を止めた。
明日も朝から実習の付き添いがあるし、そろそろ切り上げようと職員寮へ向かった。この時の私は当然のようにあの高層マンションの最上階ではなく、古びてギシギシと床の音がする高専の職員寮へと向かっていた。
薄っぺらい布団へと潜り込み目を瞑れば、疲れていたのかあっという間に眠ってしまった。夢は見なかったと思う。多分。だけど目が覚めた時には、何故かほっぺたと首周りの服がびちょびちょに濡れていて、すごく不思議だった。
あぁ、そういえば胸の痛みはもうない。
あの膿んだような感覚も、傷口が開いたような感覚もだ。
きっと、一生懸命仕事をして、たくさんご飯を食べて、いっぱい眠ったから治ったのかもしれない。
まだ少しだけつっかかった感じはするけど、でも胸をトントンと数回叩けば大丈夫だ。
真っ黒の任務服へと腕を通して思う。きっと今日も忙しくなる。
私は短刀の入ったケースを背に背負い込むと、ギィーっと大きな音が出る扉を開いて歩き始めた。
うん、大丈夫だ。
私は大丈夫だ。
いつも通り過ごせている。
寮を出る時、もう一度胸をトントンと数回叩いておいた。うん、平気そうだ。