第3章 婚約者
「そうだ、左手出して」
ゆっくりと身体を離した悟は、まだ赤く染まる私を見下ろすと言われるがまま左手を出した私の掌を掴む。
「何?」
「うん、ピッタリだね」
その悟の言葉に、左手へ視線を向ければ…そこには左の薬指にキラキラと輝くダイヤの付いた指輪。
「すっごく似合ってるよ」
まさか婚約指輪を貰えるなんて思ってもみなかった私は大きく目を見開き、そのキラキラと輝く指輪を驚いたように見つめた。
「うわぁ、綺麗」
あまりの綺麗さに思わずマジマジと自分の指についたソレを見つめていれば、隣からは「ふふっ」と小さな笑い声が聞こえて来る。
「ヒナ、可愛いね」
「えっ、突然どうしたの?」
今まで悟に可愛いなんて一度も言われたことないのに、サラリと言われたその言葉に思わず赤面する。
「指輪眺めてる顔が可愛くて。思ったより喜んでくれたみたいで嬉しいな」
楽しそうにクスクスと笑う悟は、さきほどから何だかいつもと雰囲気が違って見える。
「あの…指輪ありがとう」
照れたようにそう言えば「いいえ」と悟の穏やかな声が聞こえてくる。
何か…いつもよりもさらに優しいというか…甘いというか…
「何だか悟の雰囲気がいつもと違くて調子狂う…」
頬を染めながらそう呟いた私に、悟は真っ直ぐ私を見つめたあと、にやりと意地悪そうに笑いゆるりと口角を上げた。
「それは当然でしょ、僕達もうただの幼なじみじゃなくて婚約者になったんだから。これからは恋人扱いするよ」
「そうだけど…慣れないんだもん…それに何か恥ずかしぃ」
「大丈夫だよ、これからゆっくり練習していこう。手を繋ぐのも、キスをするのも、もちろんその先も…ね」
再び私の頬に触れた悟は、そのまま私の唇へと軽くちゅっとキスを落とすと、一瞬にしてボッと真っ赤に染まった私を見てやっぱり意地悪そうに…だけど嬉しそうに優しく微笑んだ。