第3章 婚約者
ゆっくりと私と悟の唇が離れていく。
そして、悟の白くサラサラとした髪が私の額から離れた瞬間ボッと顔全体が赤く染まったのが分かった。
「キス、出来たね」
「…うん」
悟のやけに色っぽい声が耳元を掠めてドキドキと心臓がうるさく音を上げる。今まで悟に対してドキドキすることなんて無かったのに、今はそれが嘘みたいに心臓が鳴り止まない。
「嫌じゃなかった?」
「嫌じゃなかったよ…」
それどころか、むしろ心地良いとさえ思っていたほどだ。
多分それは、悟の私に触れる手があまりに優しかったから。私の身体に伝わる悟の体温がとても穏やかで温かかったから。
初めてのキス…そして初めてこんなにも近くで悟を感じた。
嫌じゃなかったと、そう答えた私に悟は心底安心したようにして「良かった」と小さく呟くと、今までに見た事もないほど優し気に碧色の瞳を細め目尻を下げた。
その嬉しそうな表情を見て、また私の心臓がドクドクと大きな音を出し始める。
「じゃあ僕達、今から正式に婚約者だね」
私の手を握り嬉しそうにニコニコと笑顔を見せる悟を見て何故だか私の口からは、自然と「うん」という言葉が溢れ出て。
そんな私の言葉を聞いた瞬間、悟は少し驚いた表情を見せると、次の瞬間には「ありがとう、ヒナ」と囁き私を強く強く抱きしめた。
悟の見た事もないほど嬉しそうな表情を見て、私まで嬉しくなる。
「これからよろしくね、ヒナ」
「こちらこそ、よろしくね」
この瞬間から、私達は幼なじみから婚約者へ。
今まで長期に渡って変わることの無かったこの関係性が今日からガラリと変わる。