第13章 術式
浴室に入ってきた悟の表情は、頬を少し膨らませあきらかに拗ねている。
「僕が洗いたかったのに」
いじけたようなその姿に、思わず可愛いと思ってしまう私は、やはり悟に絆されまくってるなぁなんて思いながら、シャワーを浴び始めた悟から軽く視線を逸らした。
シャワーを浴び終えた悟は、その綺麗な髪を軽くかき上げると浴槽へと入ってくる。
そして当然のように私の後ろへ回り込み、ぎゅっと背中から抱き寄せた。
悟が湯船へと沈み、隙間が開いていた私達の間がぴったりとくっつく。それに「きゃっ」と色気のない声を出せば、悟は嫌な顔をすることもなくにこやかに私の首筋へとか首を埋めた。
「はぁー、癒される〜」
「癒されるの?」
私は癒されるどころか緊張して、口から心臓が出てきそうだ。
「癒されるよ、僕にとってヒナと一緒にいられるこの家が唯一の癒しだから。しかも一緒に風呂まで入ってくれるとか、癒し以外の何物でもないでしょ」
多忙を極めている悟の唯一の癒しが自分だなんて、何だかまるで実感が湧かないが、そう言われて悪い気はしないし、むしろ凄く嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。