第13章 術式
「思い出して…ない…」
「本当に?僕は毎晩思い出してるよ。ヒナと同じベッドに入るたび。ヒナを抱きしめて眠るたび。もっとヒナと近くなりたいって。あの晩みたいに君の甘い声が聞きたいって」
2歩ほど離れていた悟は、その長い足で一歩踏み込み距離を詰めると、私の顎へと優しく触れくいっと持ち上げた。
「ヒナは違うの?」
違うわけがない。あの晩を忘れろと言う方が無理だ。何も無かったかのように過ごそうとする方が無理だ。
現に私は、あれ以来ここぞとばかりに悟を意識して、馬鹿みたいに顔をほてらせて、アホほど悟に触れるたびにドキドキしていたのだから。
甘すぎる声が毒だ。
とろけてしまいそうなほど甘い表情が私を狂わせていく。
くちゅりと甘い音を立て触れ合う唇は、わざとらしく音を出しながら甘ったるいほどに触れてから、そっと離れた。