第11章 甘い休暇
いきなり不自然に動きを止めた私を悟は不思議に思ったのか「どうしたの?」と首を傾げて聞いてくる。
私はそれにハッとして「なんでもない!」と赤くなっているであろう顔を隠すようにして視線を逸らすと、水槽へと意識を戻した。
ドクドクドクとうるさく音を上げる心臓に、どうしたんだと問いたいほど胸が大きく鳴っている。
何これ…何でこんなに心臓がうるさいの…
悟のさきほどの表情が頭から離れない。
優しく目尻を下げて、これでもかというほど穏やかに微笑んでいた彼の顔。あんなの…まるで…
そこまで考えて、再びハッとしたように首を左右に振る。そんなわけないよ、だって私達は今までずっとただの幼なじみで、そして政略的に婚約者になったのだから。
少しばかり自分の脳裏に浮かんだ考えをかき消すようにして一度瞬きをすれば。
「あ、あっちにクマノミいるよ!見に行こう!」と悟の手を引いて早足で歩き出した。