第3章 婚約者
そんな私の疑問に特に誰も答えることはなく、両親同士はいつも通り和やかに日常会話を楽しんでいるし、悟はただ驚き唖然としている私を楽しそうに眺めているだけだった。
それから15分ほどして「では後はお若い2人で」なんて、まるで昔のドラマに出てきそうな台詞をうちの母が言ったかと思うと「2人とも仲良くね」と悟のお母様がニコリと微笑み4人はあっという間に部屋を出て行った。
パタンと桜柄の襖が閉まってやっと、放心状態から解放された私が悟を軽く睨み付けるようにして前へと乗り出す。
「悟!もしかしてお見合いの事知ってたの?」
「もちろん知ってたよ」
「じゃあ何で昨日言ってくれなかったの?というかいつから知ってたの?」
「ん〜、半年前くらいから知ってたかな。それに僕昨日言ったでしょ?」
ゆるりと口角を上げ頬杖を付いた悟は目の前に置いてあったお茶菓子を口へと運ぶ。
「半年??え!?言ってないよ!絶対言ってない!」
「えーでも僕お酒臭くても婚約破棄しないし、ニンニク臭くても意味ないよって言ったでしょ?あと、帰る時にじゃあまた明日とも言ったかな」
「そんなの言っ!…てたかも…言ってたね…言ってた」
悟を勢いよく睨みつけていたはずなのに、強かった口調もいつの間にか弱いものに変わっていきしどろもどろした言葉になってしまう。
いや、確かに昨日そう言ってた。お酒臭くても婚約破棄しないし、ニンニク臭くても無駄で意味ないって確かに言ってた。それにまた明日…っていうのも…言ってた気がする…