第8章 呪霊の体液
「で、呪われてるのは分かったけど、何で傑君は人の女とイチャついてんのかなぁ?」
「あぁ、これはまさに歌舞伎町ならではの呪いだよ。どうやら異性を強く求める呪いのようだね」
意味が分からない。というか分かりたくもない。そんな馬鹿らしい呪い。
「呪霊の体液を浴びて、1番初めに見た異性を愛しいと感じてしまう呪いのようだ。しかも硝子いわく愛情を満たしてあげないと解呪が遅れるらしい」
何だよその雛鳥が親を認識するみたいな呪いはよ。と思いながらも傑の言う「愛しい」というワードに苛立ちを抑えられない。しかも愛情を満たしてあげるって、そんなもん僕に頼めば一発で愛情たっぷり返して解呪してやるっつーの。
何だ?つまり今彼女は傑を愛しいと思っているということか?あー、これは苛立ちを通り越してやはり一度、傑目掛け茈でもぶっ放した方が良いか。
とりあえずこの2人を引き離すか。そう思った時だった。傑の膝で眠っていたヒナがもぞもぞと動き始めゆっくりと瞳を開いたのだ。
そしてそのまま体を起こすと「傑…おはよぉ」と言って目を擦りながら傑を見上げた。それに傑は当然のように「おはよう」と言葉を落とすと目を擦るヒナを優しく見つめるのだ。おそらく傑なりに愛情を満たしてあげようとしているのだろう。
うん、僕今確実に泣きそうだ。
寝起きの可愛いヒナを傑に見られた事がムカつく。僕にだけ向けてくれていたはずの表情を他の男が見ている事が許せない。
そもそも出張帰りの僕が目の前にいるのに、一瞬もこっち見ずに傑におはよう言うとかどうなってんだよ。いや、だから呪われてんのか。もうダメだ…頭が馬鹿になってる。