第8章 呪霊の体液
僕の六眼で見れば何が起きているかなど一目瞭然だ。ヒナは確実に呪いの影響を受けている。見たところ飛び散ってきた呪霊の体液でも浴びたのだろう。きっとしばらくすれば解呪されるような弱いものだ。
だが、いくらこの目の前の光景の原因が分かっていたとしても、イラつくものはイラつくし、腹が立つものは腹が立つ。
喉から手がれるほど手に入れたくて仕方なかったこの存在が、やっと手に入ったと思ったら他の男の膝でスヤスヤと気持ち良さそうに眠っているのだ。
いやいやいや、はらわたが煮えくり返るなんてもんじゃない。そもそも僕ですらまだ膝枕はした事がないというのに。なんで傑の膝枕で寝たんだよ!と今直ぐにでも叫びたい気分だ。
「ヒナが帳の中に入ってしまっていた猿を庇ったんだ。呪霊を祓った直後だった。運悪く呪霊の体液が猿目掛けて飛んで行ったのを庇ったんだ」
傑の言う猿とは非呪術師のことだ。なるほど、己の油断から起きた事故ではなく一般人を庇ったのか。そうじゃなければヒナがこんな簡単なミスをするはずがない。
一級術師の中でも彼女はかなりの実力者だ。高専時代は、同期であり特級呪術師の僕や傑と一緒だったからか、僕達2人に追い付こうと必死に努力していたのを知っている。きっと僕達と自然と比べられてしまう同期という立場に他の呪術師よりもきっと違う方面での苦労もたくさんしてきただろう。
そして負けず嫌いな性格が功を呈して今は呪術界でも名の通る実力者になった。だが、強くなろうが何だろうが己を犠牲にしてでもすぐさま一般人を庇う優しい性格は昔から変わっていない。