第8章 呪霊の体液
深夜任務だったから疲れてそのまま眠ってしまったのか?そう思うものの、何だか嫌な予感がして今度は傑へ電話をかけた。
『おかけになった電話番号は電源が切られているか、電波の届かない場所にあります』
「は?」
そんな僕の冷めた声に伊地知がピクリと肩を揺らす。
いや、電源が切れているはずも無いし電波が届かないはずもない。確か今日は新宿で任務だと言っていたから電波は確実にあるはずだ。しかも特級の傑と一級のヒナが一緒にいて翌日の朝まで任務がかかるとは考えにくい。なら帳のせいで電波が届いていないというわけでもないはず。
呪術師にとって意外にもスマホは必要不可欠だ。任務の緊急収集や追加任務などはザラにあるし、補助監督と連絡を取る際にも必ず必要だ。そのため職業柄スマホの電源を落とす事などほとんどないし、万が一にも傑のスマホが壊れて電源が入らないなどという事もあり得ないだろう。何故ならここ数年傑が怪我をしたところなど一度たりとも見ていないからだ。
その傑のスマホの電源が入っていない?あり得ない。
傑が電話に出ないのは可笑しいと思いヒナへもかけたが、コール音は鳴るもののいくら待っても出る気配はなかった。
二人して出ないのはやはりおかしい。どう考えてもおかしい。
「伊地知、昨日の傑とヒナの任務について何か聞いてる?」
スマホをタップしながら明らかに苛立ちを覚え始めた僕を伊地知がチラリとこちらを見つめ「いえ、何も聞いていません」と困ったような表情で答えた。
呪力の乱れも感じられないしどうやら嘘は付いていないらしい。