第8章 呪霊の体液
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「おかしい」
ボソリと呟いた僕の言葉に反応したのか、運転席からバックミラー越しにこちらを見た伊地知が「どうかしましたか?」と不思議そうに声をかけてくる。
3日間の地方出張を終え迎えに来た伊地知の車に乗っている時の出来事だった。
昨晩ヒナに送ったメッセージに返信がないのだ。それどころか既読すら付いていない。
普段は家や高専で顔を合わせている僕達は連絡を取ることはほとんどない。しかしながら一緒に住むようになってからというもの、出張中はそう多くはないがメッセージを送り合うようになっていた。
まぁ送り合うと言っても、必ず僕が先に送ってヒナが返事をくれるというパターンなのだが。僕にとってそのやりとりはとても大切な問題だった。
婚約する前までは、こうして何気ない連絡など幼馴染がわざわざ日常的なメッセージを送るのもどうなんだと思い死ぬほどやりたくても出来なかったからだ。しかし今は何の気兼ねなく連絡が取れる。用事が無くても特段内容のあるメッセージでなくとも取れる仲になったのだ。
出張中僕が隣にいない間も僕のことを少しでも考えてほしい。少しでも気にしてほしい。少しでも僕に会いたいと思って欲しい。まるで女々しい奴みたいにそんな事を考えながら毎回メッセージを送っている。
返信のないスマホを弄りながら、確か昨夜は深夜から傑と任務が入っていると言っていた。傑が一緒にいるならば危険な事はまずないだろう。そもそも彼女に何かあった場合、幼馴染であり婚約者の僕に連絡が来ないはずがない。