第1章 終わりの始まり
「見てた、か?」
慣れない煙の後少し咳払いをして跡部が言う。
「うん。」
「そうか。……まぁそういう訳だ」
「……そ。」
多分 煙草の事ではなく、先程の簡単な別れの話だろう。そういう訳だ、と言われても私には特に返す言葉もなくて。跡部も多分私の反応なんてそう求めてないだろう。だって、そんな事は関係なくて 時は戻せずに確実になにかが動き出している。私は置いてきぼりで、だけど流れは変わっていて、それだけはわかるんだ。
「………………」
ただ無言で向かい合う。
私の心はどこにもなくて 多分今無機質そのものの身体。跡部はこれまで私になにも求めなかった。だけど、多分今日は違う。私もいつもと違う。私たちは長く近くにいたけれど ただそれだけのはずだった。私からすれば。
でも本当は わかってた。
婚約者がいても 次々と彼女を作る跡部が 本当は何を求めていたのか。何度かそれを感じる出来事を素知らぬ顔で通り過ぎてきた。私はしあわせだったから。
跡部の事、大切だけどだからこそ相手をするべきじゃないと思っていたの。だから……
今夜は全部失う気がする。たぶん。
そうして私は自分を汚したい、んだと思う。その他大勢に成り下がりたくはないけど それも仕方ない。
……ん、
無言で見つめあったあと顰め面の跡部の唇が落ちてきた。それをやっぱりな、と思いながら目を伏せて受け入れた。跡部の手が肩に乗るが その手と合わさる唇は少し震えている。跡部の癖に。
わかってるよ、私の事欲しかったんだよね。どうしてかもどこまでの思いかも分からないけれど。
こうしたいって事は ずっと前から知ってた。角度を変え合わさるそれを受け入れながら 薄ら瞼を開いて確認する。これは跡部なんだと。きっと不思議だよね。今までこういう機会はあったけれど 避けていた私が 身を任せていること。
ううん、今日はこうなるだろうと跡部もわかっていたのか。だけど絡み合う舌先が大胆な割に 身体を覆い込む腕は逞しさと見合わず酷く遠慮がちだ。
跡部の頬にゆっくりと掌で触れると、さっきより僅かに背中に回した両腕に力がこもったように感じた。
そして 導かれるまま手を引かれてバルコニーから繋がる寝室に入り、ベットの淵でふたたび口付ける。どちらからともなく……