第1章 終わりの始まり
バルコニーでひとり
紫煙を燻らす。
なんでこんな慣れない事をしているかと言うと
簡単に言えば自暴自棄だ。自分の身体なんてもうどうだっていいと簡易的にやさぐれているだけ。
嫌がる事をしたい、誰かを傷付けたい。とにかくそんな最低な気分で ここ(跡部邸)にやってきていた。
終わったんだ、跡部のエセ恋。
そしてわたしの恋も。
階下の薄闇にぺちんと乾いた音が響いて 庭のライトに照らされた瞳がキッとこちらを睨んだと思えば 車に乗り込む音とそれが遠ざかる様が見える。そしてテールライトが門の向こう側に消えていくのを煙草の煙越しに見送った。
向こうからしてみれば 私なんて背後の部屋から漏れた明かりに映し出された影にしか見えなかっただろう。
言いたい事は わかってる。
だけど私は 昨日今日その罪を背負った訳じゃないし、彼女(達)にしてみれば憎たらしいだろうけど 直接悪い事した覚えはない。ただ
長く傍にいた彼氏と別れただけだ。
そして 跡部はそれを勝手に待っていただけの事。多分。
待てなんて言ってない。
私も跡部も照らし合わせた訳じゃなくただ、
私の彼との別れによって何かが変わるのを ただただ感じているだけ。私に至っては 心はどこにもないみたいに動かない。跡部がこれからなにをしようとも、たった今見た光景を目の当たりにしても 恨んだ眼差しを向けられてもなにも感じない。
もう なんだっていい……。
カタン、バルコニーの扉に手を掛け少し座った目付きでこちらを見る跡部がそこにいた。
あぁ、もう上がって来たの。そんな事を思ってまた外に視線をやる。すると近付いて来た跡部が煙草を持つ私の手首を掴み、私の指に挟まれたそれを咥えて 先端の赤を少し光らせる。そしてすぐその唇は離れて薄い煙を吐き出した。私はその始終を黙って見つめていた。
跡部、怒るどころか自分も口にするなんて……
普段の彼なら考えられない行動に 顔には出さずに少し戸惑う。まぁ怒られるのも嫌だけど。自分を汚すつもりが跡部を汚したようで少し悔やまれる。だから 側に置いていたポケット灰皿にまだ少し残るそれを突っ込んで ぐしゃっと潰した。多分二度と吸わないし。