第1章 月から
『信じてよ』
『またアンタを泣かせることがあるかもしれない』
『その時は 思い出してよ 今俺が言ったこと』
目を瞑っている私を照らすあの月の光が
少しだけ暗くなったような気がした
瞼にさす月の光が
そのとき耳元で聞こえた小さな吐息
『そろそろ 時間、かな』
沈んでいたふとんのそこが浮き上がって
気配が軽くなる
リョーマがそこにいるという時間が軽くなる
「まって、やだ」
いやだ行かないで
と、
行かないでと、声を上げる
行かないで、行かないで
『名前、呼んでなかったね』
『アンタの』
行かないでと、伸ばしかけた私の手にぎゅっと力が入る
指が絡まる
絡めて折り曲げるその指に私も合わせて、ぎゅっと静かに指を折っていく
『、一緒に いるから』