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溺愛巫女は、喰べられたい

第1章 人、ならざるもの


ふたりに会ったのも、こんな満月の夜だった。




『おまえ、このままだとその右目に喰われるぞ』




お兄ちゃんが事故に遭ってから、切り傷が増えた。
気付かないうちに腕や脚に出来る小さな傷痕。
だけどそれらは気付かないうちに治っていたし、さほど気になる対象でもなくて。
むしろ気になるのは。
見えるはずのない、人ならざるものたちの姿。
真っ黒い影として、それらは道端や学校、至る所に存在する。
通りすがりの関係ない人たちを、喰らっていくんだ。
そしてそれはいつしか近しい友人たちも、例外なんかじゃなくて。
何度呼びかけてもだれにも信じてもらえずに。
『みことちゃんの意地悪。なんでいつもそんな怖いことばかり言うの?』
『巫さん、いい加減にして。これじゃ授業が始められないわ』
ただ怖がるあたしを、誰ひとりとして助けてはくれなかった。
友達は徐々にあたしから離れていき、それはいつしかいじめの対象にまで、なっていった。



増え続ける切り傷。
どんどん消えていく笑顔。
いじめを確信した両親は、転校を決意し、そこで出会った男の子。

お母さんに手を引かれて帰った学校からの帰り道。
狼に言われた。


『おまえ、このままだとその右目に喰われるぞ』



(え…………)


耳にたしかに届いた声。
だけど。
振り向いた先には誰もいなくて。
ただの気のせい、そう、思ってた。



この、夜までは。



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