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溺愛巫女は、喰べられたい

第2章 悪魔の右目


ガラガラガラ
って。
狼が準備室の分厚いドアを、閉めた。


「………狼………っ」


「拒否なんてさせない」
「…………っ」
「苦しいよね、痛むよね。今、楽にしてあげるから」
「………っな、い、から」


奥の方でひたすらうずくまる尊へと一歩近づけば。
小さな身体がビクン、と震える。



「尊、とりあえず足見せて。血の匂いでユーリがおかしくなる前に止血させて」

狼が優しく声をかければ。
小さく尊が、コクン、と頷く。
だけど。
狼が膝の擦り傷を治してる間も尊は顔を隠したまま。


「尊」
「!!」

後ろから、尊の肩へと手を置くと。

「来ないで!!」

なおも続く、否定の言葉。

「大丈夫。顔見せて尊」

後ろから抱きしめるように尊の手首を取る、けど。

「いや………ッッ」

それを頑なに、拒否する。
でも。

「ごめん尊」

力じゃ敵うわけないでしょ。
力任せに尊を後ろから抱きしめて、手首を顔から引き剥がした。



「………だから、嫌だって………ッッ」


絶句する俺たちから顔ごと視線を外して。
尊の声が、苦しそうに嗚咽づく。


「いつから、こんな………」
「こんなになるまでなんで黙ってた?」


黙ってた?
違う。
気付いてあげられなかったのは、俺たちの方だ。
こんなになるまで尊は、ひとりで苦しんでたのに。


右目はすでに意志を持ち始め、尊の皮膚まで侵食してる。


こんなの。
すごく、痛かったはずなのに。
苦しかったはずなのに。



「今すぐ浄化する」
「だめ!!」
「尊?」
「だめ…………っ、やだ」


「ごめん尊。尊の同意は、求めてない」
「ユーリ………っ」


ごめん。
どんなに嫌がっても泣き喚いても。
止めない。
尊の意志は、関係ないんだよ、もう。


「狼………っ」

助けを求めるように目の前の狼に尊が視線をうつすけど。
狼だって俺と同意見なはずだ。


「…………すぐ、楽にしてやるから」


「………っ」


絶望の表情が、涙で濡れた。
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