第2章 悪魔の右目
狼に奥まで貫かれながら、ビクビクと震える身体。
塞いだ口から漏れるくぐもった声。
抜ける吐息。
おっきな瞳から溢れた涙が、床に敷いた制限を濡らしてく。
湿った空気。
そして。
喉を鳴らすたびに感じる、甘い血の、心地よく溶けてく味。
ごくん ごくん ごくん
「ふぐ、っぅ、ぅう〜〜〜っ、ん!!んんッッ」
狼に愛されて。
俺に愛されて。
尊の血はどんどん甘くなっていく。
甘く、濃厚に。
美味しくなっていく。
「ごちそうさま」
ペロリと、傷口を舐めて。
止血。
そのまま尊の身体を抱え込んで、短く辛そうに吐息を吐き出す尊の額の汗を、拭った。
「意識ある?大丈夫?」
トロン、としたままにゆっくりと頷く尊に軽く口付けて。
ついで。
「狼」
へと、視線をうつす。
「………っき。もんだい、ないから」
悪魔の右目。
尊の中に流れる悪魔の一部。
繋がることでその『一部』は身体に流れ込む。
そしてそれは、『負』に、作用する。
誰しも抱える闇。
それらをありありと、浮き彫りにするんだ。
それから。
俺たちに流れる『魔』の部分。
狼にとっては獣の部分、を。
より強力なものに、する。
「狼。でもそれ…………」
「触んな」
まるで満月の夜のような。
獣の目。
牙。
口の端から溢れる唾液。
「じき治る、から。…………尊は?」
「まだ」
日を追うごとに強力になっていく力。
なかから尊を喰い殺さんと日々蝕んでいく。
右目が疼き出して。
痛みだしたら。
こうして俺たちが『浄化』する。
魔の気を、他へと流すことで。
一時的だけど抑えることが出来るんだ。
「尊」
ふわりと尊を抱き上げれば。
尊が不安そうに、瞳を揺らす。
「ユーリ…………」
「大丈夫だよ」