第1章 生理痛と七海(ネームレス)
「ごめんなさい、わがままで……。面倒臭い女で、ごめんなさ……」
最後まで言い切る前に後頭部に手を添えられ、引き寄せられる。
そして、触れ合うふたつの熱。
まるで、それを食むような彼の口付けは優しくて、とても甘かった。
名残惜しそうな表情をした彼の唇が、離れて行く。
「勘違いされているようですが、私は別に貴女と一緒に居たくないと思ってはいませんよ。むしろ、その逆です」
「……え?」
「少しでも長く一緒に居たい等と言われてしまうと、男としてはそういった事を、期待してしまうものなんですよ」
『そういった事』を想像すれば、顔に熱が集中してしまった。
「しかも、今回貴女は生理中だ。そんな貴女を外に食事に連れ出して、無理させるわけにもいかない上に、そういった事をするわけにもいかない」
ああ、この人は私の事を大切にしてくれていただけなんだ。
「貴女が、ただ心配なだけなんですよ」
「……ごめんなさい」
「しかし、初めて貴女が私にわがままを言ってくれて、嬉しくも思っています。良ければ、私の自宅で食事でもいかがですか?」
「え、でも予約したお店はどうするんですか? かなり敷居が高い、って聞きましたけど……」
「例えそこが有名店であろうが、予約の取りにくい店であろうが、そこに貴女が居ないのならば、意味はありません。それに、自宅であれば貴女を独り占めできますしね」
あまりに優しく少し意地悪に笑うものだから、泣けてきてしまった。
私は、とても素敵な恋人の大切な人になれて、幸せをかみ締めていた。
完