第2章 君たちが笑えば、私は幸せだと。そう思っていた。
私には、弟と妹が居る。名前は左馬刻と、合歓。
私にとっては大好きな彼らだけど、左馬刻からは毛嫌いされている。
理由は、私たちの父親にあった。
過去形なのは、父親はもうこの世に居ないから。
母親が父を殺し、その後彼女も自らの人生に終止符を打った。
葬儀のとき、私は左馬刻から罵詈雑言を浴びせられた。
「母さんじゃなくて、お前が死ねばよかった」
「もう俺たちの前に姿を現すんじゃねえ」
私はこんなにも彼らを心配しているのに、こう言われてしまえば何も言えなかった。
そうだよね。父さんの【お気に入り】だった私なんて、好きになれるはずがないよね。
「うん。それでも、私は二人のことが大好きだから。……それだけは覚えておいて」
その葬儀の日をもって、私は彼らともう二度と会うことは無かった。
私は、父さんのお気に入りだったから。
それは、色んな意味を含めて。
だから父さんの機嫌がいい日と、悪い日の見分けがついていた。
つまるところ、それを知っていた私はあの二人と母さんを彼の暴力から守るために率先して、それを受けにかかっていたのだ。
未だに、その際の傷は残っている。
カッターで切られた日もあって、その傷も残ってしまっているし、悲しいことに鳩尾を殴られたことによって卵巣が潰れ、子供を産めない身体になってしまっていた。
それでも、弟妹と母さんがほんの少しでも平穏に暮らせていると思えば、どんな苦痛にだって耐えられた。
こういう時、本当にポーカーフェイスで良かったと思う。
だって、あの左馬刻と合歓でさえ騙しちゃうんだから。
H歴に変わり言の葉党が政権を握り始めてから、二年。
彼は、ディビジョンラップバトルのヨコハマ代表となり、大きな存在となっていた。
「……よかった」
どんなことがあったって、彼は。彼らは、この狂ってしまった世界で生きている。それだけで、私は幸せだった。
願わくば、このまま。彼らに、何も知られること無く。
何事もなく、女としての自分の幸せを捨ててまででも、彼らを見守ろうと誓った。