第2章 君たちが笑えば、私は幸せだと。そう思っていた。
「姉貴、本当に悪かった。
どう言っても今更言い訳にしかならねぇが、あん時の俺たちは自分のことしか考えられなくて、周りが全く見えてなかった。
ってのは、建前でただ知ろうともしなかっただけなんだが。
クソ親父の暴力が始まる前、俺たちを分け隔てなく大切にしてくれていた奴が、俺たちを見捨てる筈なんてあるわけねぇのにな……」
左馬刻は後悔を孕んだ瞳で、私の肩に手を置きながらそう言う。
そして、気がついた時には左馬刻の胸板が目の前にあって、その逞しくなった腕は私の背中に回って、片方の掌は私の頭を撫でていた。
「すまねぇ、姉貴。ずっと、苦しめて。でも、俺たちをそんなにまでなって守ってくれようとしてくれて、ありがとな……」
私は……! 私は……っ!
「ほんとは……っ、左馬刻に、お母さんに助けてもらいたかった……!
何度、助けを求めようとしたか分からないよ……っ!でも、私は……っ、お姉ちゃんだから……っ!」
あぁ、そうか……。
私はこの二人に、本当は私のことを知って欲しかったんだ。
助けて、って言いたかったんだ。
私は、何年かぶりに声を上げて泣いた。
外であることも忘れていたけど、それでも涙を止めることは出来なかった。
この二人が幸せで居てくれることを私は願い、それが自分の幸せであると勝手に思い込んで、自己暗示をかけていた。
自分の本当の気持ちを殺して、自分にとっての幸せを壊して。
でも、合歓の温もりを。
左馬刻の温もりを感じて、その凍りついてしまった感情が溶けだした。
「ごめん。シャツに鼻水ついちゃった……」
左馬刻の胸から顔を離すと、べったりとそのアロハシャツに鼻水がついてしまっていて謝ると、左馬刻は笑った。
「散々、今まで傷つけてきたんだ。そんくらい釣りが大量に出るくらい安いモンだ」
「あ、あの、お姉ちゃん、ごめんね……。お姉ちゃんのチュニックに私の鼻水ついちゃった……」
合歓からの突然のカミングアウトで、私はなんだか可笑しくなって笑ってしまった。
あぁ。私、まだ笑えたんだ……。
「二人が幸せで笑って過ごせるなら、可愛いものだよ」
私は振り返り、地面に落ちた手提げ鞄からハンカチを取り出して、合歓の鼻水を拭く。