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無色透明な赤い糸       【DC】【松田】

第1章 いち



 "昔から、人に縁がない"

 自分で言うのも虚しいけれど。

 「そう、これよ、コレ!新刊出てる!はわわっ、何この神表紙!!やっば!!」

 通い慣れた本屋は、裏通りのシャッター街、そこの一角の小さな古いお店。

 「こっちも買っちゃおうかなぁ。でも、今月少しピンチだし」

 中学卒業を目前に一人暮らしをせざるを得なくなり、まぁなんとかこうして生きていられるのも、生き甲斐である物語とそれを買うためのこの書店があるからで。

 「まぁ、うん。つぎ、来た時買お」

 迷った挙句、諦めたその本の行先がどこかなんてその日の私に分かるわけなんてない。

 「560円」

 威厳のありそうな店主の深く、皺が刻まれた手。
 600円をトレーに置くと、お釣りの40円を手渡される。

 すっかり常連だというのに、未だ無愛想な店主。

 「ありがとうございます」

 お礼を言うのも、通い始めて以降私だけだった。

 私がお店を出ると、レジの下から取り出した新聞を何事もなかったかのように読み出す。

 お客さんは今日も私1人だった。

 まぁ、毎日通っているわけでもないし、他の日時に関しては分からないけれど。

 そんなことより、早く続きを読みたい。

 裏通りを抜けて、しばらく行くと公園がある。
 よく、小学生の子達がサッカーをして遊んでいる、広い公園だった。
 そこでは、昼頃になると、お昼休憩をしているサラリーマンやOLもよく見た。

 みんなの憩いの場所と呼べるようなその場所の、木陰のベンチを間借りして、物語を読むのが好きだった。

 漫画なら尚いい。

 想像では補えないものが、ちゃんと描写してあって分かりやすかった。

 喧噪をBGMに、表紙を開いた瞬間に世界が変わる。

 私が経験できなかったことを疑似体験で知るのだ。

 小説なら数時間、漫画なら数十分。

 作品によって、その体験時間は変わるけど、泣いたり笑ったりドキドキしたり、感情が湧き立つ瞬間が何度もあった。

 いつかもし、現実にもこんなことが起きたら、感情が湧き立つような何かがあれば…なんてそれこそ、私にとってはファンタジーが散りばめられた話よりも亀毛兎角だ。

 あえて言おう。
 亀毛兎角って、言いたかっただけだ。

 そんなこんなで読み進めること、数十分。

 表紙を閉じた瞬間に、現実へと戻る。
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