第6章 6th
『わかってない』
そういうと大袈裟にため息をついて、私をまっすぐ見る研二のその瞳に、愛しさ全部含んでるようで、それが私に向けられたものだと思うと、たまらない。
「俺を困らせてるとか、捨てていいとかそんなのも含めて、全部好きの裏返しでしょ」
「な、」
「今日俺に言った不満?文句?俺は全部愛してる以上の言葉だよ、だから全然これからもぶつけてくれて構わない」
「嫌だよ、泣いちゃうし」
「泣いてる顔もかわいいし、たまになら見たいかな。
と言っても、彼女を痛ぶるような加虐趣味はないんだけどねー。
それに、もう絶対」
"絶対"
唇を動かすのが見えたのに、音を拾わない。
ねぇ、なに?聞こえないよ。
ねぇ、今なんて言ったの。
『っつーことで、本当の本当に仲直りってことでいい?』
「あ、うん」
よかったと、またぎゅっと強く抱きしめくれたその腕の中は、研二の懐のはずなのに、変だな。
タバコの匂いも、研二の香水の香りも、何一つしない。
「けんじ、」
ねぇ、今、現実?
それとも、都合のいい夢?
「けんじ、」
「なに?」
「変なこと、きいてもいい?」
「ん?」
「お願い、…困らせていいっていうから」
「あ、うん。早速だな。なに?」
「泣き顔も、好きなんでしょ。だからさ、聞いて」
「変なの、そんな前置き」
「研二がもし」
"しんじゃったら、"
「もし、私をおいていったら、」
「置いていく?俺はどこにいくの?」
「遠いところ。すごく遠くて、一生会えないところ。
私は息もできなくて、でもがむしゃらに追いかけて、…ねぇ、研二私どうすればいい?」
どんな顔してるのか見たくなくて、研二の胸に顔をおしつける。
「もちろん楽に追いつける方法もあるの、でも研二は怒るだろうね。許してくれないかも」
「…」
「研二は私の心臓だよ、」
「…ねぇ、それって俺がこの仕事してるから言ってる?」
怒ってるのか、温度の感じない覚めた声。
未だかつて聞いたことのない声。
甘えだね、今ならなんでも受け止めてくれる気がしたの。
「うん、って言ったら…研二は、私との仲直りはやっぱり取り消すの」
大きなため息。
「そんなに俺、今日の事で不安にさせた?」
…違うよ。
だって私、覚悟してたんだから。