• テキストサイズ

残り香     【DC】【萩原】

第5章 5th


 「…笑っちゃうよね、いつの間にこんなに弱くなったんだろうってさ」

 あれだけ暖かく感じていたはずの体温なのに、何も感じない。

 「研二、ずっと見てくれてたんでしょう?
 どう思った?
 復讐する気もないくせに、馬鹿みたいにタバコ吸って時間進めて、逃げるみたいに仕事に打ち込んで、…
 毎日毎日早く迎えにきてよって、思って、」

 答えるように私をさする。

 「こうやって、研二に当たって、…情けない」
 「ゆり」
 「私から研二を奪わないで、そばにいて。
 私が大丈夫ってわかったら、いつか研二消えちゃうんでしょう?
 研二ってそう言うやつだもん」

 もっと強く抱きしめてよ、研二。

 「大丈夫じゃないよ、全然大丈夫じゃない。
 安心してなんて言えない、天国で松と、って、言いたくない。
 松にも、死神にも、神様にも、研二のこと渡したくない。
 絶対、渡したくない」

 狂ってる?

 「最期みたいに行動しないで」

 分かってる。

 「がんばったよ、わたし。
 研二がいない世界を7年も生きたんだよ」
 「…」
 「私から大切な人を奪ったのも誰かなのに、誰かのための仕事なんてやりたくないって、思いながらずっと仕事してた。
 研二の言う通りだよ、わたし向いてなかった。
 不純な動機だった、だから、誰かの笑顔なんてとてもじゃないけど見たくないって、この7年何度も思った」

 研二を攻めて何になるんだろう。
 酷い弱音だ。

 「幻滅したでしょう?
 研二が好きになった私なんてもうどこにもいないんだから」
 「ここにいるだろ」
 「…っ、」
 「独りにしてごめんな」

 こんな時でも研二は優しい。

 「泣き虫なゆりが、俺のことで泣いてるの久しぶりに見た気がするよ」

 穏やかな声に、体温が戻ってくようなきがする。

 「気丈に振る舞ってさ、仕事も人一倍頑張ってたの見てたよ。
 俺がいない間、俺の同期たち支えてくれてたのも、他のやつの最期をきいて、何度も唇噛み締めてたの知ってた。
 何度も抱きしめてやりたいって思ったのに、この腕じゃ通り抜けちまってさ。
 幻滅しちまうのは俺に対してだよ、こんなに想ってくれる相手を傷つけることしかできないんだから。
 ブレーキ持ちが、聞いて呆れるよな」

 私の涙にそっと触れたその指が少しだけ透けた気がした。
 
/ 52ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp