第1章 1st
大好きな人が亡くなって、7年が経った。
それでもやっぱり、毎日が続いていて私も歳を重ねて。
気付いたら30手前。
逃げるように仕事に向き合った結果、どうやら無理が祟ったらしい。
病院で告げられた言葉は、一周回ってなんとか腑に落ちたというよりは、無理やり落とした。
通帳に溜まったお金は小さい時からのもので、私はこれで22歳の彼と結婚するハズだった。
なのに、プロポーズの翌日にこんなことになるなんて、きっと彼は予想してなかったんだろう。
私だって予想してなかったよ、万が一があるかもしれないのに防護服着ないで解体してたなんて。
「けんじのばかやろー。」
蒸したタバコは、彼のお気に入り。
私の大嫌いな、モノ。
でも、7年も経てばむせなくなるもんだな。
「何してるんです、こんなところで。」
誰もくることはないと思っていたから、ここにきたのに。
「わー、アムロレイ」
「アムロ違いです。」
「安室奈美」
「だから、人違いだって。その口縫い付けるぞ。ったく、病人がタバコなんてあいつらが知ったらどう思うか。」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。私がこうしてるの、ぜんぶあてつけだから。
だってさ、タバコカートンで何個も買いだめしてたんだよ。
私これキライって言ってたのに。」
病院の非常口、絶対バレたら怒られるだろうけど…と、最低限のマナーで携帯灰皿でそれを消す。
「キライだって?そのカートン一人で空けて、またさらに今も買い足してるのどこの誰ですか?」
「仕方ないじゃん、形見でもらった香水だいぶ少ないんだもん。」
「それ買い足せば良かったじゃないですか」
「ばっかだねぇ、あむぴさん。あれ、高校に上がる時にあいつにあげて、やけに気に入ってくれたけどちょっとしてから生産停止になっちゃって、そのあとやっと見つけたやつだったんだよ。だから、次のお休みに二人で違うやつ買いに行く約束してたんだよ。」
「…そうなんですか。」
少ししんみりしたのは、きっと湿った風のせい。
「私の検査結果聞きにきたんだよね?」
「大事な、依頼主ですからね。」
「違うでしょ、協力者。眼鏡の男の子には、勝てないかも知んないけど」
「…全く、あなたって人は」
「概ね良好ー!問題なし!」
「概ねって?」
「そこ普通突っ込むかな」