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残り香     【DC】【萩原】

第3章 3rd


 「んんっ、」

 カーテンから漏れた朝日で、目を覚ます。

 「ふぁあっ、」

 なんか、いい匂い。
 美味しそう…。

 ゼロが来たのかな?
 鍵渡してたっけ?

 寝ぼけた頭でそんなことを考えながら、視線だけ移す。

 わたしのシュシュをつけたぴょんぴょんと跳ねる黒髪。

 逞しい背中に、鼻歌が聞こえる。

 私の胸はまた大きく鳴った。

 ベットを抜け出して、ぎゅーっとそれに抱きつく。
 …まだ、触れる。

 「こらこら、急に抱きついたら危ないでしょ、ゆりちゃん。」
 「…研二がいる、ぎゅってできる。」
 「はは。うん、おはよう」
 「でも、昨日より匂い薄いね?」
 「んー。そうかもなぁ、じゃあ香水またかけてよ。ご飯食べたら。」
 「うん!」
 「いい返事。そういえば、しばらく仕事ないんだったっけ?」
 「うん、辞めたから…しばらくはお家にいるよ!」

 研二がコンロの火を止める。

 「そっかぁ、なら…しばらくは俺と2人で居られるな。デートとかしようぜ、いっぱい」
 「っ」
 「あの頃、できなかったもんな。」
 「うん!!」

 今までのがまるで長い長い悪夢を見ていたようで、だからきっとこれが現実に違いないんだ。

 研二が作ってくれたご飯を、テーブルに運ぶ。
 研二は、やっぱり食べられないみたいだったけど、私が食べるのを見ながら嬉しそうに笑う。

 「研二、タバコも買いに行かないとね」
 「ゆり…」
 「研二のぶんだよ、もう一箱しかないから」
 「俺、カートンで買ってなかったっけ?」
 「…わかってるくせに意地悪言う」
 「はは。ごめんごめん。まぁでも、タバコくらいならすえっかなぁ」
 「あっ、ねぇ。研二がさ、外でタバコ吸って中に戻ってきた後にぎゅーってしてくれるの、タバコ臭いっていつも言ってたけど、本当は大好きだったの」
 「…不意打ちはダメだって、照れちまう」
 「照れる研二は、レアだね」
 「そうかい?俺結構照れてたよ、」

 思い出を手繰り寄せるみたいに、二人で会話を重ねる。

 「研二のは、"テレ"じゃなくて、"デレ"でしょ。
 いつも私には、余裕に振る舞ってたじゃん。」
 「そう見えたなら、そうだったのかもなぁ」

 とんっ

 向かい側に座ってた研二が何を思ったか、立ち上がりテーブルに手をついて、身を乗り出す。
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