第1章 さようなら。
念入りに巻いた、腰までの長さのブロンドヘア。
偽りばかりを映すグレーのカラコン。
流れるように引いたキツめのアイライナー。
ただ目力を出したいが為のバサバサのつけまつげ。
風に溶け込むシャネルの香水。
しなやかな手についた長い煌めくネイル。
金魚のようにシフォンがなびく真っ赤なマーメイドドレス。
血のような色をした、真っ赤なルージュ。
今、すべてを夜に溶かそうとしている。
屋上の風は、
体を愛撫するようにどこまでも優しく、
どこまでも激しい。
シルバーの背の高いヒールを脱ぎさり、
フェンスを乗り越え、
「さようなら。」
ただ一言つぶやき、
夜空に浮かぶ花火のように、
その身は宙に投げ出された。
とても蒸し暑い、夏の日の出来事。
皮肉なことに、黒に赤は美しく映えた。
まるで映画のように見えたそのシーンは、
フェイクではなくリアル。
鉢から飛び出した金魚は闇に溶けていった。