第7章 思えば私に対してもあんなだった
仕事に行っている父が帰宅するのは、大概22時を過ぎる。
本日も土曜だというのに、本当に働き者なうちの大黒柱である。
「綾乃。病院の検査結果を見せなさい」
ワイシャツの襟を緩め、帰るなりソファに座った父が診断書を片手に眉をひそめる。
「……一週間を待たず平日に、ひと通りの検査を受けた方がいいね」
「やっぱりそう思うわよねえ?」
寝る前の時間。
私たちはダイニングに集まってお茶を飲んでいた。
父の言葉にうんうん頷く母とタクマさん。
みんな心配性なんだなあ。
「明日は家庭教師先に行くと聞いてるが」
「ああ、車で連れてくんで」
まず拓真さんと私が先方に行って話をすると、母が父に概要を話していたようだ。
話。
親と派遣先の問題となるとおそらく、私はあそこのアルバイトを辞めることになるんだろう。
そして……たしかに、触られたのはビックリしたし、嫌だったけど。
あれは卓磨くんからすれば、おそらくちょっとしたイタズラに過ぎなくって。
だけどそれで大ごとになったら。 彼は今後派遣先や学校、親から変な目で見られるかもしれない。
中学生なんて多感な時期に。
ただゴメンなさいって、もうしないって、卓磨くんがそう一言言ってくれたら、私としては全然構わない。
私が書き込んだ赤いマルで埋めたノートをかざして、『俺の勝ちだね!!』
なんて得意げな笑顔でそれを眺めていた卓磨くんを思い出した。
付け加えて、彼のおかげで初めて気付いたけど、私は人になにかを教えるのは割と好きなようだ。
それだからタクマさんに今回のことを相談した。
もう一度だけ先方と話をしてみたいと言った私にタクマさんがついてきてくれるのなら、とても心強い。