第1章 朝凪のくちづけ
そんな事を思いつつ車に揺られ、半分うとうとし始めた私は、タクマさんと出会ったばかりの、自分がまだ小さかった頃の事を思い出していた。
『タクマ明日も来る?』
『だから『さん』位、付けろって…来るっつーか、オレはいっつもこの時間はここに居んの』
『じゃまた明日ねー』
『……またな。 帰りコケんな…っおい』
『痛……痛ァい……』
『言ったそばから……大丈夫か? ああ泣くな、めんどくせぇ。 ほら、膝に砂ついてるから……オマエ、名前は?』
『……綾乃』
『綾乃……ここに来てもいいけど泣くのは止めろ。 約束できるか』
『……っん!』
『……よし』
そういえば、昔彼は煙草を吸ってた。
私が行くといつも吸いかけのそれを消して、そしていつの間にか全く吸わなくなった。
彼は口の割に優しい人だ。
優しいからいつも受け入れてくれてた、もしもそうならそれでもいい。
どうか私を拒まないで。
私が傍にいる事を許してほしい。