第1章 朝凪のくちづけ
「あと、何で毎年来んの夏だけなワケ?」
「!! いいの? 夏以外にも来て」
「つか、遊びじゃないんなら来いって。 ……そう思うだろが、フツー」
そうなの? また体を起こそうとすると彼の腕に力が入りそれを阻止された。
「……大人しくしばらく抱き締められてろ」
抱き……?
あ、そういえばこれ、そうだ。
初めて男の人に、タクマさんにぎゅってされた。
スゴく、もの凄い嬉しい。
「………好き」
彼は何も言わなかったけど、指先が優しく髪を梳き始める。
とくん…とくん……とくん…。
ザザ……ン─────────
波とタクマさんの心臓の音が聴こえる。
こうやって身を預けているとまるで海原に抱かれてるみたいだなんて、そんなことを思う。
「気持ちいい」
「そう」
「こんど私もぎゅってしたげる」
一瞬波音が止まり辺りにしん、とした静寂が訪れる。
小さい頃はこれが何か分からなくって、怖がる私にタクマさんはこんな風に頭を撫でてくれた。
『綾乃……また、んなベソかきやがって。 こりゃただの─────』
「あ、ねえタクマさん。 これ」
「18なら、セーフだよな」
「───────……」
両頬を手で挟まれたかと思うと、あの隙の無い寝顔が迫ってきてぱく、と唇を覆うみたいに食べられ頭が真っ白になる。
「……今はこれで我慢しとく」
二年前はそっちからしようとした癖に。 固まった私にそう囁いてきて、もう彼の声以外、私の耳には何も入らなくなった。