第88章 番外編 ご報告
まだ付き合いが始まっただけで、交際期間も浅い。こんなに素敵な夫婦関係を築いているシカクとヨシノと同じというには、おこがましいだろう。それに恥ずかしくもある。
二人は結婚していて、夫婦なのだ。それを変に意識してしまい、キリの頬が僅かに赤く染まった。
しかし、仲間から恋愛関係に発展した事に違いはないので、こくりと頷いて肯定する。
シカク「……そう、か」
ヨシノ「本当に、シカマルと……」
もう一度、顔を合わせたシカクとヨシノは、どちらともなく両手を上げた。
シカク「母ちゃん」
ヨシノ「父ちゃん」
「今日はご馳走だ」と、二人は互いに手を合わせた。
「ついにか」と、しとひきり二人は喜びを分かち合った後で、キリに笑顔を見せる。
シカク「おいおい、キリ。なんて顔してんだ。付き合いを報告する顔じゃないだろ」
大きなシカクの手が、キリの頭をぽんっとなでた。
シカク「シカマルのこと、よろしく頼む。ありがとうな」
キリ「あの、私……!」
シカク「わかってるよ。全部。大丈夫だ。というよりもな、最初から気にしたことねぇよ」
「なあ母ちゃん」と、ヨシノを見れば、ヨシノも「もちろんだよ」と、力強い母親の笑顔を見せた。
心を陰らしていたキリの懸念は、一掃される。
キリが不安に思っていることとか、消えない自責だとか。語らずとも、その全てを受け入れてくれた。
本当に、キリはどこまでも奈良の人間に救われるらしい。
まさかありがとうと言われるとは、思っていなかった。
じわりと、キリの胸に温かさが広がっていく。