第21章 有能助手
六畳一間の薬剤庫。入ると独特な草の香りがする。
両サイドの木棚の他に、中心に置かれた長机の上にも薬棚がいくつか並ぶ。
そこから必要な薬の材料を取り出して、子鹿のいる部屋へと行けば、そこにはすでにキリの姿があった。
普段は休みの日でも専ら修行に一日を費やしているキリだが、子鹿の部屋に訪れることがある。自室以外は奈良家で唯一、キリが出入りする場所だろう。
特に食事後の治療時は、必ずシカマル達と子鹿の部屋に同行していた。
シカ(キリ……)
子鹿をなでるキリの姿に、シカマルの胸は小さく跳ねた。
同じところで生活をして少し経つが、いまだに慣れることのないこれにシカマルは頭を振る。
シカ(ったく、んなことしてる場合じゃねー。治療だ治療)
子鹿の治療薬は、中でも難しい部類に入る。
毎日それにたずさわっていたので、製薬は可能だろうが、こんな風に浮かれた気持ちでやっていれば、どこかでミスも出るかもしれない。
シカマルは気を引き締め直して、手に持っていた材料を広げる。
シカ(やるか。まずは……)
ひとつ目の材料を取ろうとしたところで、それは目の前に差し出された。
突然のことに少々面をくらっていれば、キリは小さな木の実をシカマルの手に置いた。
キリ「違った?」
シカ「いや……さんきゅ」
キリから手渡された木の実を薬研に入れる。
ごりごりとその実を砕いていれば、キリは次に使用する薬草を差し出してくる。
シカ「もしかして、全部覚えてんのかよ」
キリ「毎日見ていたから」
驚いてキリに尋ねれば、キリはこくりと頷いて「でも確かじゃないかもしれない」と次の薬草を手渡した。
キリ「違っていたら言って」