第87章 ながい夢
かっこいい派手な必殺技は無いけれど。
颯爽と現れてスマートに助けてしまうようなヒーローの理想像は、いつもボロボロになって、なりふり構わないシカマルとは掛け離れているけれど。
世間一般から見れば、シカマルはヒーローではないのだろう。
それでも人生でたった一人、守りたいと思った女がヒーローだと言ってくれた。
シカ(もう十分じゃねぇか)
唯一であるキリが、そんな風に思ってくれるなら、もうそれだけで、お釣りがくるぐらいだ。
キリ「っ!?」
たまらずに自分をヒーローにしてくれた、目の前にいる愛しい人を抱き上げれば。
驚きの表情を見せたキリは、すぐに優しい笑みへと変わる。
シカ「俺を選んでくれてありがとな」
そう言えば、キリはふわりと返事を返した。
キリ「それは私のセリフ」
シカ「ばーか、勿体ねぇぐらいだっての」
とんっとキリを地面に降ろしてやれば、柔らかな笑い声が聞こえる。
茨の道を歩まなくてはならなくて、たくさんの傷を背負ったキリを、この手で支えて行きたい。
心優しいキリは、どうしたって自分のことをすぐに後回しにしてしまうから。
シカ(俺が、お前の幸せを一番に考える)
キリが毎日を、一日一日を、一年を、ぬくぬくと笑って暮らしていけるように、全身全霊で守っていくことを誓おう。
二年前はまるで。キリと仲睦まじい関係になれるとは、思っていなかった。
近づくことすらままならなかったキリが、今はもうこんなにも、そばにいる。
感情を押し殺して、耐え忍ぶような生き方をするキリの笑った顔を見てみたくて。
抑揚のないその声が、揺れるところを聞きたいと思っていたあの頃。
ーーそして、あの日の夢が叶った今。
人はこんなにも心あたたかくなることがあるのだと。自分にはこんな幸せが待っているのだと、過去の自分に教えてやりたい。