第87章 ながい夢
シカ(そりゃあ……まあ、キリに出会ってからは、そうだったかも知れねぇけどよ)
好きな女よりも弱いなんて。いつまでも、守られっぱなしでなんて、いられるはずがないだろう。
一刻も早く強くなりたくて、それはもう足腰が立たなくなるほど、修業を重ねた苦い記憶は確かにある。
しかしだ。ヒーローの特徴といえば、何よりもこれだろう。
シカ「ピンチの時に、どこにいたって駆けつける」
どこにいようが、どんな状況だろうが、颯爽と現われて救出するのが、正義の味方。ヒーローだ。
キリ「…………」
考えを巡らせているキリは、どうやら結論に辿り着いたようで、ふと笑みをこぼした。
キリ「やっぱり……あなたも、そうでしょう」
シカ「!」
キリ「危ない時には駆けつけてくれて、落ち込んでる時は手を差し伸べてくれる」
シカ「そりゃあ、お前が困ってたら……」
それはそうだ。好きな女に危険があれば、駆けつける。落ち込んでいるなら、支えたいと、そう思うだろう。
キリ「私にとって……あなたはかっこいいヒーローだけど」
なのにどうしてヒーローにはなれないのかと、不思議そうなキリに、シカマルはしばらく言葉を失った。
シカ「……くっ、くくっすげーな」
肩を震わせて笑うシカマルに、キリがさらに首を傾げれば、シカマルの笑い声が響く。
〈こんな自分はヒーローなんて〉
ずっとそう思っていたはずなのに。
それがどうした。思い返せば、いつのまにか努力する男になっていて。
シカ「くくっ、お前といりゃ俺もヒーローになれんだな」
キリといると、やる気のない無気力な男だって、ヒーローになれるらしい。