第87章 ながい夢
そして、キリのお手並み拝見という初の演習試合で。
キリはチョウジの折れた腕に追撃を入れるような女で、シカマルはキリに怒りを覚えるとともに印象は最下層まで転落した。
そんな関係は変わらないまま、3ヶ月が経った頃。
シカマルは、キリへの認識を改めることになる。
そう、思い返しても失態でしかない。
本当は救助してくれたのに、キリが子鹿を攫ったと勘違いしたあの一件。
あの時、子鹿を助けるために、初めてキリの切羽詰まったような声を聞いた。
今までを振り返っても、キリが焦る時や、必死になっている時、それはいつも人のためだった。
そして、シカマルはこの一件から、知らなかったキリの事を、知るようになった。
アカデミーで三人のくノ一に絡まれているのを見かけ、くノ一達の邪魔をしてやれば「……どうも」とキリから不器用な礼が届いた。
もともと礼儀正しい性分なのだろう。
関わらないようにしているくせに、何かをしてもらった際には、きちんと礼を言ってしまうような奴なのだ。
さらに下忍になった頃、キリが木ノ葉の里で監視下にいて、いつも見張られていた事を知る。
シカクによって追い払われ、監視が消えた時、糸が切れたように眠りに落ちたキリ。
腕の中で眠るキリの顔は、あどけなくて幼さが残る、シカマルと同じ12歳のそれだった。
だが、普段のキリはいつも張り詰めたような雰囲気で。
キリはこの里で、その小さな身体一つで、神経を尖らせながら、過ごしていたのかと。いつも気を張っていないと、生活をする事が出来なかったのかと。
実家で両親と、アカデミーで友人と、のらりくらりと過ごしていたシカマルとは、まるで違う環境にいたキリに、思うところがあった。