第86章 景色は色付いて
初めて好きになった人が、あなたで本当に良かった。
そう言えば、頬を赤く染めたまま、ちらりとキリへ視線を戻したシカマルは、たまらずもう一度キリを抱きしめた。
シカ「あー……くそ」
ぽすりとキリの肩に頭を乗せたシカマルが小さく呟いたそれに、思わず笑ってしまう。
シカ「全然かっこつかねぇ」
世の中の男はどうやって、こんな時にもスマートにいられるものなのかと。
ぽつりと愚痴をこぼしたシカマルは、頬に紅葉を散らしていて。確かにシカマルの理想像とは異なるのかもしれない。
それでも、そのままのシカマルが好きなのだから、そのままでいいのだとそう言えば。
どこか不満気なシカマルは、ポツリと言葉を落とした。
シカ「好きな女の前でぐらい、かっこつけてぇんだよ」
キリ「……」
シカ「……お前今笑ったろ」
キリ「いえ、笑ってないわ」
シカ「聞こえてんだよ」
キリ「……ふふっ」
シカ「笑ってんじゃねぇか」
キリ「ごめんなさい」
シカ「……」
キリ「気を悪くした?」
シカ「してねぇよ」
キリ「少し怒ってる?」
シカ「怒ってねぇって」
キリ「本当に? ……っ」
シカ「お前また笑っただろ」
キリ「いえ、全然」
シカ「嘘つくなっての」
そんなやり取りを繰り返して、ふと視線が通った二人は、互いに見つめ合う。
キリ.シカ「……………」
しばらくの沈黙の後。
耐えられなくなった二人の笑い声が響くのは、同じタイミングだった。