第86章 景色は色付いて
いつもより少し低くて優しい、シカマルの声がする。
キリ「私……っ」
シカマルの言葉が、キリの中に響いて渡っていく。
こんな自分を、ずっと好きでいてくれた。今もなお好いていてくれた。
それは嬉しくて嬉しくて、仕方がないことなのに。
好きでたまらないのに、本当に自分なんかでいいのかと。誰より隣にいることを望んでいるのに、決して真っ白だとは言えないこの手で、シカマルの手を取っていいのかと。矛盾した気持ちが交差する。
言い表せられない複雑な思いに、キリが言葉を詰まらせていると、ゆっくりと体を離したシカマルと、視線が混じる。
すると、シカマルは眉を下げて、少し困ったような笑顔を見せた。
シカ「最初っから、お前以外見えてねぇっつの」
キリ「ーーっ」
その笑顔に、きゅっと胸が締め付けられたように痛くなった。
切ないぐらいの想いは募る。
キリの迷いや不安を、言葉にせずとも感じ取っていたのだろう。
シカ「キリ以外を好きになる予定はねぇ。つーか、そもそもなれる気がしねぇ」
キリ(本当にあなたはいつも……)
そうやって、ふわりとキリの中の枷を解いていく。
その重りが溶けてなくなれば、残るのはただ一つだけで。
キリ「私も、あなたしか見えてないわ」
シカ「っ、あー……」
キリの言葉に、照れ隠しに視線を逸らしたシカマルを愛しく感じる。
キリ「最初から、あなただけ」