第86章 景色は色付いて
シカ「あいつにも助けられたな」
キリ「あいつ?」
そう聞き返せば、シカマルは色々と思うことがあるのか、少し眉根を寄せて、顔を歪ませた。
シカ「イチカ。里を出ようとしてた時に、あいつに会っただろ」
あの時イチカとの再会というのが、大き過ぎて、里を出ることを上回ったのではないか。
シカ(いや……)
違う。それよりも、イチカは持ち前の性格で、人を激しく巻き込んでいく節がある。
巻き込みに巻き込まれて、他の事柄に目を向ける暇がなかっただけなのかもしれない。
シカ(あー、その方がしっくりくんな)
そんな嵐のようなイチカを思い出して、シカマルは苦笑する。
シカ「あいつ、なんつーか色々すげぇよな」
そんなシカマルの〈色々すごい〉が良い意味も悪い意味も、含まれているものだという事がわかって、キリに思わず笑みがこぼれる。
シカ「いい奴なのはわかるけどよ」
そう。イチカがいい奴で、キリを好いているのもわかるし、仲間想いな事も、充分理解出来る。
が、いかんせん激し過ぎるのだ。
完全なる台風型。
己の欲求や考えに基づいて、行動する。その際、周囲への被害は顧みない。
シカ「いのとも似てんな」
ぼそりと呟いたそれに、シカマルの後ろからキリの笑い声が聞こえた。
シカ「ぜってーこの二人会わせたくねぇ」
キリ「そう? 凄く打ち解けそうだけど」
シカ「馬鹿お前、大変なのは周りにいる方だっての」
いつだって振り回されるのはこちらの方だ。そんな台風が二人合わさったらどうなることか、考えるだけで酷く面倒くさい。
幼馴染み一人で手に余る。
シカ「それに、あいつは手に負えねぇ」
キリ「イチカのこと?」
シカ「おう。いのはああ見えて、意外と理性的なところがあるからな。きちんといける時といけない時を見極めて動く」