第86章 景色は色付いて
キリ「……フミさんはあの後、私を命をかけて守ってくれた」
その結果、キリは無事で今ここにいて、フミは今、先立った旦那と同じ場所で眠りについている。
そんなフミの最期を思い返せば、今もまだ、ぎしぎしと胸は痛みを訴えた。
キリ「あの時は、誰かの犠牲の上に生きるつもりなんてなかったから」
またキリが原因で、失われた命。
キリ「……苦しくて、後悔を重ねに重ねてもうわからなくなった」
何故、キリだけがまだ生きているのか。
これ以上はもうないくらいに、後悔したって、何も返って来てはくれない。
奪いながら生きていくことが、重くて仕方がない。失うものが増え過ぎて、それに耐えられなくて、心が息をしていないのだ。
悲痛の叫びをあげるそれに、もう心が追いつかなかった。
キリ「避けていたつもりでも、いつの間にか人と生きてた。だから、これ以上の関わりが怖くて、フミさんの葬儀が終わった後……私は木ノ葉の里を出ようとしたわ」
シカ(あの時……やっぱり)
キリの言葉に、シカマルも思い当たる節がある。
普段は持たない鞄と、悲しみを背負って、ぼんやりと空を見上げていたキリは、どこか普段とは異なる危うい空気をまとっていた。
キリ「……あの時も、あなたが迎えに来てくれたわ」
そうして迎えに来たシカマルは、全力で距離を置こうとするキリの壁を、するりと乗り越えて来てしまう。
キリ「戻れない時に、当たり前のように帰る場所を教えてくれる」
キリを一人、その場に置いていくことは絶対にしなかった。