第86章 景色は色付いて
樹の里での最後は、キリに死を望む者がいて。
木ノ葉隠れの里では、蔑まれ、厭われて、敵意をみせられて。
親殺しだ、同胞殺しだと言われ続けて、平気な人間がどこにいるというのだ。
言われても仕方がない事をしているから、だから、その言葉たちを受け止めなくてはいけない。でも、それに対して何も感じなかったわけではない。
だって平気なフリを、するしかないだろう。
どれだけ願ったか。
何度、望んだか。
あの出来事の前に、戻して欲しいと。
もう一度、やり直させて欲しいと。
そうすれば、誰が手をかけたりするものか。一緒に生きていたかったに、決まっているだろう。
仲間の命も、友人の家族の命も、両親の命も、そのどれも奪わずにいたかった。
今も笑って、みんなと一緒にいたかった。
それでも、そんな想いを誰に言えるというのだろう。
親殺し、同胞殺し、そんな言葉を耳にする度、いつだってキリが刃物を突き立てたその光景が蘇る。
心に重く影を落として、誰にも言えない日々の中で。
誰かに必要とされてること、当たり前のように居場所を与えてくれることが、涙が出そうなぐらいのぬくもりを与えてくれた。
キリ「関わらずに生きようと本気でそう思ってたのに、矛盾ばかりだった」
その矛盾は、キリの内側をいつだって遠慮なく削っていくのだ。
望まれていないから、諦めなくてはいけない。捨てなくてはいけないと、理解していたつもりだった。
ただ、本当の意味でそれを受け入れるには、キリの心はまだ幼過ぎた。
キリ「一人は……本当は、悲しかった」