第86章 景色は色付いて
キリ「家へ帰らなかった時……迎えに来てくれたわ」
汗だくで、息切れして、必死になって探してくれたそれは、どれだけ、キリの感情を揺らしたことか。
シカ「もうやめてくれよな。あれは心臓にわりぃ」
当時、よほど心配をかけたのだろう。
「もうしない」とそう言えば、シカマルは安堵したようだった。
キリ「帰ろうって、言ってくれたことが、凄く胸に響いた」
あの家へ一緒に帰ろうと、キリを迎えに来てくれた時の、胸の痛みを忘れない。
キリ「私、あなたがいたから眠れるようになったわ」
シカ「どういうことだよ?」
里内、それどころか自宅の中にまで侵入されて、襲われたキリ。
おちおち眠る事も出来なかった夜、シカマルがキリ以上に、警戒していたから。
四六時中、刺客の存在に神経を尖らせていた毎日で、シカマルは唯一気を抜ける時間を作ってくれた。
キリ「いつ襲われるかわからないから、必然と眠りは浅くなった。眠るというよりは、身体を休めていただけ」
周りが寝静まれば寝静まるほどに、夜が濃くなれば濃くなるほど、いつだって戦闘を開始出来る準備をしていた。
キリ「でも、あなたがずっと警戒してくれていたから。……あなたが隣にいる時は、いつのまにか眠れるようになった」
シカ「っ……、バレてたのかよ」
うっと口ごもるシカマルに、バレバレだったと笑えば、シカマルは恥ずかしそうに言葉を濁らせた。
シカ「まじかよ……ダセェ」
キリ「ダサい? どうして?」
夜の警備はシカマルが勝手にやっていたことで、キリに伝えるつもりはなかったようだ。
シカマルは物音がすると、決まって外に出て、わざわざ確認に行ってくれていた。いつも勘違いで、部屋に戻ってきていたが。
すべてが露顕していたことが恥ずかしいらしいシカマルに、キリはもう一度、ダサいわけがないと首を傾げた。
キリ「そんなはずない、かっこいいわ」
シカ「~っ、あー……さんきゅ」
キリ「お礼を言うのは私の方。本当にありがとう」