第86章 景色は色付いて
キリ「また、何か言われるものだと思っていたから」
また責められると、完全にそう思っていた。もう散々色んなことを言われていて、キリもみんなを突き放していたのだから、当然なのだが。
そんな中で、シカマルだけが同じ位置から声をかけてきた。
シカ「言わねーよ。実際お前も関わってきた奴らぶった切ってただけで、自分からは何もしてなかっただろうが」
当たり前のように、そう告げるシカマルがどれだけ特殊なのか、気付いていないのだろう。
〈嫌い〉〈嫌な奴〉〈怖い〉そんな空気は簡単に感染する。
キリ(……そんな風に声をかけて来たのはあなただけ)
空気も、過去も、噂も、よそ者である事も、そんな充分すぎる付属品に目をくれず、自分と同じ位置から、対等に話せることが、どれだけ凄いことか。
キリ「合同任務もあったでしょう?」
シカ「あったな。やっぱ今思い出しても、アスマが来ねぇのはおかしくねぇか?」
上忍不在の初任務。
それは、10班と11班合同でのCランク任務。依頼内容は、サーカス団から逃げ出したエース団員とライオンを連れ戻すこと。
作戦も上手くいき、問題なく任務を終えて、帰路へついた時。
アスマ無しで任務を成功に収めたことに、喜ぶいのは、チョウジ、シカマルとハイタッチをして回っていた。
すると、シカマルはキリにもその手を上げたのだ。
その時はただ驚いて。つい思わず、えっまさかこれは私がするのかと、いのとチョウジに視線を送ってしまったのを覚えている。
なかなかそれに応えずにいたキリと、決して手を降ろすことのないシカマル。
結局根負けしたキリが、応えたことで、いのやチョウジとも任務の達成を分かち合うことになった。
決して、輪に入ることはなかったはずのそれに、シカマルはキリを引き込んだ。
アカデミーの頃に作った、いのとの壁が崩れ始めたのは、間違いなくこれがきっかけだっただろう。