第86章 景色は色付いて
【おい、あそこまでする必要あったのかよ】
これは、初の演習試合でキリがチョウジの腕を折り、更に追撃を試みようとした時に、シカマルから言われた言葉。
友人を傷付けられて、怒りを露わにするシカマル。
キリたちの出会いも、他の同期と変わらず、最悪だった。
いや、それどころか身近な友人を傷付けた分、他よりもずっと印象は悪かっただろう。
決して、キリたちは仲良しこよしで、始まったわけではないのだ。
この頃、シカマルからは、いつもどこか怒りのようなものを感じていたし。
キリもシカマルは、その他と同等で、他となんら変わりなく。そもそも興味がなかった。
いつも気だるそうに、のらりくらりと過ごしていた彼は、友人のために怒り、面に立つタイプなのかと思いはしたが、ただそれだけ。
所詮は、死を待つキリには関係の無い人物でしかなかった。
さらに、二十四時間、一日中ついている監視。
外にいても、家にいても、寝ている時でもいつだって、見張られ続け、キリの神経は疲弊していた。
そしてどこにでも、タチの悪い人というのはいるもので。
キリを弄ぶように、眠っている時や、気を緩ませた時にわざと敵意を送ってくるような監視員もいて、肩の力が抜けない日々。
そんな毎日が続く中で、ある転機があった。
それは、森で迷子になった子鹿を助けた時。
思えば、これから二人の関係は変わっていったのだ。
キリ(……懐かしい)
シカマルは気付いているだろうか。
それから、たくさんのものをキリへ与えてくれていたことに。