第86章 景色は色付いて
キリ「聞いて欲しい」
本当にたくさんあるのだがと、前置けばシカマルは当たり前のように、返事をくれる。
シカ「全部聞くに決まってんだろーが」
キリ「!」
そして、よっと向かい直ろうと、体を反転させようとしたシカマルを、キリは慌ててそれを制止する。
キリ「ま、待って!」
シカ「?」
これから話しをするのだからと、顔を見て話そうとしたシカマルの行動に、何ら間違いはない。
それは正しいが、いかんせんそうされては、こちらの心臓や気持ちや羞恥、それはもう色々と保てる自信がない。いや、間違いなく無理だろう。
だから、少し申し訳ないがこのまま続けさせていただくことにする。
キリ「こ、このままで」
シカ「このまま? まぁいーけどよ」
そう言って、そのままストンと腰を下ろして、あぐらをかいてくれたシカマルに、キリはホッと胸をなでおろした。
そして、ゆっくりとキリが話し始めるのを待ってくれるシカマルに、ああやっぱり好きだななんて、そんな事を思いながら。キリはこの里に来てからの生活を思い返していた。
キリ「私……木ノ葉の里へ来たばかりの頃、長く生きるつもりはなかった」
ここでの生活が始まってからは、自分が生きることへの罪悪感と後悔に、心がすり減って壊れていく毎日で。
シカ「……おー、知ってる」
シカマルは、少し困ったようにそう言って笑った。
そんな中で、キリが通い始めたアカデミー。
三代目やカカシ、イルカ。
そんなごくごく少数な人を除いて、キリの周りに味方はいなかった。
そして、キリ自身も、味方のいない環境を作っていたのだ。
同級生から陰口や、直接の非難、罵倒される中で、シカマルは覚えているだろうか。
キリとシカマルが、初めて交わした言葉を。