第86章 景色は色付いて
どれだけたくさんの人に背中を押してもらって、今ここにいるのか。
もう一度、空を見上げれば、そこには春を告げる鳥が飛ぶ。
寒かった冬は、もうとうの昔に過ぎ去っていたのだ。
次の瞬間、体が勝手に走り出していた。
止まる理由は、もうない。
キリ「はぁっはぁっ」
駆け足だったそれは、速度を上げて、いつのまにか息が切れるほどに駆けていた。
そんなことをせずとも、シカマルはそこにいるのだから。
退院したばかりの自分にそう言ってはみるが、もうどうにも止まらなかった。
それどころか、更に加速していくのだから、もう仕方がない。
キリ「……邪魔」
そう言って、入院用の大荷物も、ポイっと投げ捨てる。
後で、回収すればいい。
とにかく今は、1分1秒でも早く、シカマルに会いたかった。
キリ「はっはぁっ……っ」
そうして駆けはじめてしばらく。
シカ「ーーから、ーーで、ーー?」
小さく聞こえてきたその声に、キリは足を止めた。
ゆっくりと、声の方へと近付いていけば、その声は次第に大きくなっていく。
そしてシカマルの声と比例して、キリの鼓動もドクドクと早さを増していった。
今までシカマルに会うのに、これほど緊張した事はなく、はじめてだった。
シカ「くそっ、なんで俺が薬草なんか取りに来なきゃなんねーんだよ」
ぶちぶちと文句を垂れながらも、薬草を摘んでいくシカマルは、その位置を細やかに変える。
シカ「こんなことしてる場合じゃねーんだっての」
一帯の薬草を全て採ってしまえば、次に繋がる薬草が生えなくなってしまうから。
場所を変えて、影響を与えないように少しずつ薬草を採っていくシカマル。
シカ「俺のせいで次の奴の薬草が足りねぇって言われたら、採りに来るしかねぇしよ」
そんな風に文句を言いながらも、しっかりと作業をこなしていくシカマルがシカマルらしくて、自然と笑みがこぼれた。