第85章 始まりと終わり
シノ「キリ、いいのか」
「話がないなら失礼するが」と、再びそう告げたシノに、ハッと我に返ったキリは、考えがまとまらぬままに、こくりと頷いた。
キリ「えぇ、私は……もう」
疑心暗鬼だったそれも、二人を見ていれば、疑いはただの不思議に変わった。
突然過ぎてわからないこともやはりあるのだが、顔を赤くした医療員は、嫌がっているようには見えず、恥ずかしがっているように見えた。
それにシノはシノで医療員に特別、優しげな瞳を向けて、医療員と接している。
見ているこちらが、あてられてしまいそうな二人は、完全に仲の良い恋人同士のそれで。
「自分の話は大丈夫だ気にしないでくれ」と、キリが首を振れば、医療員と視線が混じった。
『………キリさん』
キリ「?」
歩み寄ってきた医療員に、そっと手を握られて、一体どうしたのかとキリは医療員を見つめる。
『もうあまり無茶はしないで下さいね』
愛らしい声でそう告げているのに、どこか圧を感じる医療者の言葉に、キリは眉を下げて笑顔を返した。
キリ「……善処するわ」
そのどちらとも言えないグレーな返答に、本当に頼むと念を押されてから、医療員はふわりと笑みを浮かべた。
『シカマルさんは今、森の川べりにいるそうです』
キリ「え?」
その名前に驚いて、医療員を見れば、瞳は真っ直ぐに返された。
『シカマルさんがあまりに外へ出ようとするので、安静を条件に退院してもいいと綱手様が仰ったみたいです』
キリ「それでどうして森へ?」
そう問えば、苦笑いを見せた医療員。
退院許可後、ばたばたと怪我人にあるまじき速度で、退院の準備を始めたシカマルに、青筋を浮かべた綱手はシカマルに命令をしたそうだ。