第85章 始まりと終わり
ちらりとシノを見れば、シノはサングラスをかけ直して、告げる。
シノ「キリ、お前の話はいいのか」
キリ「え、あぁ……それは」
キリの話というのは、もちろんシカマルのことで。
間違っても、付き合いましたとの報告を受けた直後にするものではない。
今の恋人を目の前に、ねぇあなたが好きだったあの人の事なんだけど。なんて、そんな話を持ち出す奴は、空気が読めないにも程があるだろう。
なので、二人が付き合っているのならば、自動的にこちらの問題も解決されるのだが。
キリ(……本当に?)
シカマルを慕っていた彼女の姿を、隣でずっと見ていたから。
その報告は、どこか素直に中へと入ってこなくて、キリは確かめるように二人へ視線を送る。
シノ「ないのか? ならば、俺たちはもう行く」
『っ!』
シノはきゅっと医療員の手を握って、自らの方へと引き寄せる。
シノ「なぜなら、これから俺たちは初デートだからだ」
『~~っ、シ、シノさん!』
顔を赤くして、シノを咎める医療員に、シノは小首を傾げた。
シノ「違うのか」
『うっ……ち、違いませんけど……っ』
とりあえず、手を離してくれと告げる医療員に、シノはその手の力を少しだけ強める。
シノ「付き合っているのならばいいだろう」
『だ、駄目ですよ! 人前でこんな……っ』
シノ「後でならいいんだな」
ふっと目を細めて「わかった」と手を離したシノに、医療員は頬を染めて言葉を失っていた。
キリはぽかんとした表情で、目の前での光景を見つめていた。