第85章 始まりと終わり
キリ「私に用が?」
『少しお話ししたいことがありまして……』
キリ「私も、貴女と話したいことがあるわ」
「どこか場所を変えて話しましょう」と提案すれば、ぬっと何処からともなく姿を現した人物が一人。
シノ「出来るだけ手短に頼む」
キリ「!」
まるで気付く事が出来なかった気配に、驚きを隠せずにいれば、シノはそんなキリに構うことなく、言葉を続けた。
シノ「なぜなら、この後は出掛ける予定があるからだ」
予定があるのならば、引き止めては申し訳ない。
その予定の後や、それが無理なら明日にでもまた病院へ訪れればいい。
それを伝えようとすれば、医療員の方がそれよりも早く口を開いた。
『実は、キリさんに伝えたいことがありまして……』
キリ「……? どうしたの」
少し落ち着きがない医療員を不思議に思っていると、医療員はちらりとシノに視線を向けてから、言葉を続けた。
『その、私たちお付き合いする事になりました』
キリ「そう………………え?」
この瞬間、頭の中にどれほどの疑問符が浮かんだだろうか。
キリ「え……っと、あなたたち、が?」
そんなキリの問いかけに、医療員とシノは互いに目を合わせてから、再びこちらへ向き直るとこくりと頷いた。
『はい。私と、シノさんが』
キリ「そ、うなの……おめでとう……?」
『ありがとうございます』
にこりと微笑む医療員に、キリは呆然としながら、ひとりごとのようにこぼした。
キリ「もしかしたら、あなたはって思ったこともあったけど……」
シノと医療員のやり取りを見ていて、ほんの少し、シノは医療員を気にかけているのではないかと思ったことはあった。
だが、今はなんでもかんでも恋愛に結び付けているような気がして、勘違いだろうと思ったのだ。