第84章 叶わぬ恋の先
確かに、確かに医療員がお願いしたことなのだが。穏やかなその声音と瞳での〈付き合おう〉に、なんだか急に気恥ずかしく思った。
『っ……、ず、ずいぶん悩まれていたので、その無理強いはしたくありませんし』
シノ「ああ、少し考えていた。だが、問題ない。なぜなら……」
一歩、二歩と、シノは医療員へ歩み寄り、その手をとった。
シノ「俺は、お前のことが好きだからだ」
『………え!?!?』
目をまん丸にした医療員に笑って、シノは続ける。
シノ「フリだとしても、俺とお前は今から恋人同士になるんだろう。願ってもない」
《え、好き……好き? シノさんがわ、私を?》
思考回路が、大変混雑している。自分ももちろんシノの事は好きだが、今シノが言っているのは、そういう好きじゃない事は、さすがにわかる。
シノ「俺がなんのために、ずっとここへ通っていると思っている」
『え……ちょっと、待、待って下さい』
一旦落ち着こうと、シノと距離を取ろうにも、シノは手を離してくれない。
『~っ、シ、シノさんは用があって、病院へ来ていると』
凄く優しく握っているはずなのに、力強くて、握られたその手に熱が移る。
焦りもするだろう。告白など、生まれてこのかた一度もされた事はないのだ。
シノ「その用は、お前に会う事だ」
半歩、後ろへ下がった医療員に、シノは一歩、歩み寄る。