第84章 叶わぬ恋の先
現在、シノに恋人はいないと聞いている。無理に付き合ってもらうのは、心苦しいが、今頼れるのはシノしかいない。
シノ「それは、構わない……が」
《あ……》
珍しく戸惑うようなシノの言い方に、医療員は冷静さを取り戻す。
そんな事をしたって、シノにはなんのメリットもないではないか。
それどころか、今後恋人を作る際に、足枷になってしまうかもしれない。
いくら良い人だと言っても、そこまで付き合う義理もないだろう。
でもあまりにも、シノが寄り添うように親身になってくれるから。優しい声音で話してくれるから。その願いが許されるような錯覚を起こしてしまった。
『す、すみません。おこがましい事を……も、もちろん無理にとは言いません!』
シノ「いや、無理ではない。ただ驚いただけだ」
『そんなに、そんなに長い間じゃなくてもいいんです! 少しだけで……』
シノ「……どういうことだ」
長期間シノを拘束するつもりはない。
『キリさんが……シカマルさんとちゃんと話しが出来るまででいいんです』
キリが医療員のことを、気にかけて立ち止まるようなことは絶対に避けたい。
自分がキリに与えてしまった苦痛は、なかったことには出来ないが、せめてこれからのキリを邪魔するようなことは、もう二度としたくないのだ。
シノ「……………」
少しの沈黙の後、シノは小さく問いかけた。
シノ「つまり、しばらく付き合う〈フリ〉をしたいと……そういう事か」
こくりと頷けば、シノは腕を組んで、考えるような素振りを見せた。
シノ「…………」
そわそわと沈黙の中、待っていたが。ついに耐えられなくなった医療員が、失礼なお願いをして申し訳なかったと、そう言おうとした時、シノからの返答があった。
シノ「ああ、構わない」
『え……と、いいんですか?』
「本当に?」と、不安そうに問いかける医療員に、シノはふと微笑んでみせた。
シノ「どうした、お前から言い出したんだろう。付き合おう」