第84章 叶わぬ恋の先
シノの優しさが、心に沁みて、医療員の後悔を拾い上げていく。
『私、自分が恥ずかしくて……っ』
シノ「………」
止めようとしても、溢れ続ける涙をシノが優しく拭ってくれるものだから、涙はなおさら止まらなかった。
『本当に、違うんです。悲しいのは、それじゃなくて……っ』
確かに医療員は、シカマルの事が好きだった。
付き合えるだとか、そんな大それた事を思ってはいなかった。こんなに素敵な人のそばにいられたら幸せだろうなと、ただそんな夢を膨らませて、少しのお喋りが嬉しかった。
ある日、シカマルの告白を噂に聞き、ショックも勿論あったが、同時に思い返せばすぐに納得出来て。
それ以上に、ある考えが頭をよぎって、血の気が引いた。
そして、今日。考えていた最悪の展開は、現実となった。
『キリさんは……今までどんな想いをしてたのでしょうか』
キリは医療員に、事情があって言えなかったと言った。
その事情は、キリが好きな人を好きだと言うことすら出来なくしてしまうようなもので。キリは、一人その気持ちを殺していたのではないか。
『検査は……きっと、辛かったですよね』
重ねる言葉と共に、涙は勢いを増した。
病院に来るのは、キリにとって嫌なものだったのではないか。辛いものだったのではないか。
そこへ行けば、キリがどうしても伝えられない相手に、好意を寄せて喜ぶ医療員がいるのだ。気分が良いはずがない。
そうとも知らずに、自分は馬鹿みたいにシカマルへと想いを語っていた。
それをずっと聞いてくれていたキリは、どんな気持ちで笑って返事をしていたのだろうと思えば、胸が痛くて仕方がなかった。
『患者さんに、私はなんてことを……っ』